リチウムイオン電池と安全保障貿易

八若洋平です。

1991年にソニーが世界で初めて実用化して以来、リチウムイオン電池(以下LIBと略)の分野では日本のメーカーは世界で圧倒的な存在感を示してきた。LIBの製造は複雑な工程が多く、品質を保持しながら大量生産する技術を確立するには長い開発期間が必要であった。これらの関連技術を日本のメーカーはノウハウとして、ブラックボックス化して生産を続けてきた。
しかし、最近は韓国のメーカーが技術習得を通じてLIBの生産技術を確立して、価格攻勢で日本のメーカーのシェアを奪ってきている。一方、日本では三洋電機を統合したパナソニックは、LIBの国内生産を再編し、今後の民生用LIBついては中国での生産比率を高め、製造コストを下げ、韓国のサムスンなどに対抗する方針と言われている。
これら一連の動向について、安全保障貿易の観点、安全性、技術ノウハウの流出と市場経済性の三つの観点について考えてみたい。
第一に安全保障貿易の面から見て、LIBは外為法で規制されている貨物であり、輸出及び製造技術の取引は経産省が規制している品目である。今回のLIBの生産を海外に移管するケースでは、その製造技術も移管されるので、役務取引に該当するか否かの判断が必要になる。LIBは輸出令の16項(補完品目)にキャッチオール規制があり、今回は民生用と限定していることは外為法上有利に働くかもしれないが、厳密な審査が望まれる。
第二に安全性については、約5年前にパソコンに採用されたLIBが発火するという事故があった。その後日本メーカーは製造時の品質管理や原材料の最適化等により、電気自動車のバッテリーに搭載出来るまでに安全性は向上し、高付加価値製品になった。後発のアジア各国はその成果の上に立って生産に乗り出す有利さがあった。
第三に、技術ノウハウの流出の点では、これまでの半導体や液晶パネルの生産で韓国、台湾、中国の追い上げを受けたと同様に、LIBについてもノウハウ主体の製造技術であるため知財の保護がなく、技術が国外に流出すれば、汎用化、量産化に伴って日本にブーメランとして返ってくる。この局面では、安全保障貿易管理の思想が発揮されているとは到底思えない。各企業においては、技術情報(ノウハウ)についてより厳格な管理が要求されると共に、国またはオールジャパンとして戦略的な取り組みが望まれる。
また市場経済性については、日本は自由経済社会であるので自由競争が原則であるが、LIBのような「戦略製品」については、国または企業連合で技術を囲い込む戦略があっても良いと思われる。
韓国の企業が国と一体になって特定製品の開発を進め、成功していることを考えると、日本も国としての戦略を持つ必要があると思う。そのためには、安全保障の考えを貨物の輸出貿易の面に留めるだけではなく、戦略製品については技術開発の段階から安全保障の概念を取り入れることが肝要であると思われる。