四国遍路に思う

昨年5月3日に歩き遍路を結願しました。5月のGWを活用しての区切り遍路を志して以後、結願まで実質10年かかりました。
途中でよく止めなかったなと今でも思います。お世話になった四国の方々、協力してくれた家族に感謝します。

これまでの自分を歩きの中でじっくりと見つめ直し、新たな生き方を見つけたいと当初考えていました。しかし歩いている最中はそのような余裕はなく頭で考えるようにはゆきませんでした。歩き続け足摺岬を越え愛媛に入った頃から雑念が削がれた気分になりました。また宿の人、土地の人の優しさを感じ、山沿いの民家の入り口に植えられた小さな花々に気づき、美しいと感じられる気持ちになっておりました。私が育った時代の故郷を連想させる四国の風景は懐かしく又心地良く、私の心を優しくしてくれたようです。結願後1年が過ぎましたが、機会を作りもう一度お遍路に挑戦したいと思っています。
お遍路さんと言えば白装束、金剛杖、菅笠を思い浮かべるでしょう。
いずれも長い年月をかけ洗練されて来たもので実用性は高く、又フル装着した姿は四国の自然に良く馴染んでいるように思います。
金剛杖は長時間の歩き、山道の登りを助けてくれる用具であり又蛇、虫から身を守るための防護用具でもあります。坂道の苦手な私は大変助かりました。金剛杖は弘法大師の化身であると言われています。杖に記載されている“同行二人”とはお大師と一緒であることを意味します。遍路行に於ける心の支えであり、なくてはならないものです。金剛杖は粗末に扱うことは許されません。丁寧な取り扱いの為に種々の教えがあります。宿に到着した時は一番に杖の先を水で洗い部屋の上座に立てること、トイレには持ち込まないことを励行しました。同行二人の思想は古くより継承されお遍路さん、人々の心に定着しています。金剛杖が悪用されることは無いでしょう。
CP&RMセンター月例会で実施している安全保障貿易関連のトピックス紹介の中から金剛杖の教えに通じる新聞記事について以下記載します。
日経新聞(2014.11.18)は、戦力強化を目的に軍事側が民間の先端研究を支援する動向にあること、この先端研究支援は本来の自由な研究活動を妨げる恐れがあることを指摘しています。これを防ぐ為には新たな仕組み作りが必要であり、更に研究者は先端技術が民生、軍事双方で応用できることを認識し強い自覚と責任をもって研究をすべきと述べています。
資源のない我が国は常に技術優位を続け国際社会で生きなければなりません。しかし技術の役割は単に利益・財を生むためのものだけではありません。技術は、地球環境問題、食糧問題をはじめとする人類・自然の永続的持続を可能とする為になくてはならないものであります。
一方で技術は悪用される危うさを持ち、これを避けるには技術を生み出す者、使う者が技術の本質である高邁な役割を理解し、大切に取り扱うことが必要です。複雑化の進むこれからの時代は、技術を生み出す者、使う者はこの倫理をより一層研ぎ澄まされなければない時代と言えます。
私は、更に学校教育の場で継続的に技術倫理を教えることが必要と考えます。将来の研究者・技術者、為政者はもとより、国民一人一人が技術の役割を正しく理解し、技術倫理を心に定着するためのものです。時間がかかると思いますが、本教育が浸透すれば日本発技術が悪用されることは大幅に減少し、国際社会の平和と安全に大きく貢献できると考えます。

中村英夫