軍事研究の扱いに関する考察

日本学術会議は、「安全保障と学術に関する検討会」の結論として、大学等では「軍事研究はしない」という従来の声明を継承すると報告した。この検討会では、注目されたデュアルユース(軍民両用)や防衛目的の技術の扱いに踏み込まず、結果として、軍事研究は憲法が保障する「学問の自由」を脅かす恐れがあるとの理由から自粛を求める内容である。

(出典:平成29年3月13日付日経新聞朝刊)

この検討結果は、安全保障問題に深入りすることを避けたいため、学問の自由と云いながら、却って大学や研究者が研究テーマを選択する自由を縛っているのではないか。また軍事の定義が不明確で、判断基準として文科省予算なら認めるが防衛省予算なら排除することになるのではないか。いづれにしても国民が払った税金であることには変わりがない。日本の学術を総括する団体の結論としてはお粗末な検討内容で課題が多いと言える。

世界的に見ると、米国は豊富な防衛予算で基礎研究を振興する体制があり、その結果がインターネットやGPSといった民生用に役立つ技術の実用化につながっている。日本においても少なくともデュアルユースに繋がる技術であっても、その基礎研究くらいは認めないと、世界の技術開発の進歩から遅れてしまう懸念がある。

最近、「日本の科学力失速」という報告が英科学誌「ネイチャー」の特集で掲載されているとの報道がある。(出典:平成29年3月27日付日本経済新新聞朝刊)この中で、日本の科学研究はこの10年間で失速している。その原因として、日本における研究開発投資が横ばい(国立大学への交付金削減)で、若い研究者が就ける任期のないポストも少なくなったことを挙げており、この分野では、日本の改革が世界のスピードに追い付いていないと断定している。この現実の課題について日本学術会議の考えを問いたいところである。

そこで提案したいのが、「安全保障貿易管理」を取り締まる「外為法」を軍事研究の判断基準に準用して、各大学に判断を任せてみてはどうかということである。外為法では、輸出に係る貨物や技術について詳細な規制があり、将来輸出する場合を想定してこの法律の規定を「軍事研究」に着手する場合にも準用してはどうかという提案である。既に各大学では安全保障貿易管理の体制が整っており、関連省令により各研究の内容を外為法でチェックしており、抵抗は無い筈である。この法体系では、特定の基礎研究は規制外とされており、また技術成果を外部発表する公知化も認められている。各大学が責任を持って研究内容を管理するならば、自主性も損なわれないと考える。また大学が実用化の研究まで手を伸ばすのは効率が低いので、そのような段階からは民間に任せ、基礎研究に集中すればよ良いと考える。

日本の学術振興を目指す団体としてはその検討内容が不充分であると感じたため、また日本の科学研究の失速に危機感があるため、新たな私案を提起してみた。

文責:八若洋平-201704