化学兵器についての考察

最近、金正男氏の暗殺で使用されたとうわさされているVXやシリア北部で民間人に対して政府軍が使用したとされるサリンなど、化学兵器関連のニュースが続きましたので、化学兵器について考察したいと思います。

矢じりにトリカブトなどから取った毒を塗り、狩猟に役立てたという話を聞いたことがあります。ある意味、これも立派な化学兵器だと思います。この様に、生物由来の”毒”は身近な存在ではありました。ちなみに、トリカブトの球根を乾燥させて加工したものは漢方薬として使用されていて、“附子(ぶし)”と言います。当然、猛毒ですので、使用量を間違えると大変なことになり、過剰に摂ると、死に至らないまでも、顔面の神経が麻痺して無表情になるそうです。この無表情の事を“附子”と呼ぶ様になり、これが転じて“ブス”となったそうです。ですので、和英辞典で“ブス”を調べると、“plain-looking”と出てきます。

話が逸れました。

近代的な化学兵器は、やはり、第1次・第2次世界大戦のドイツに端を発すると言えます。

1915年4月22日は、戦場で初めて塩素ガスが使われたので、”近代化学戦誕生の日”と言われているそうです。(本に記載が有ったのですが、ネットで検索しても出てきません。一部の方のみで言われているのかも知れません。ちなみに、この時の戦場はベルギー西方のイープルだったため、毒ガス目的の塩素ガスの事を”イペリット”と呼ぶ様になりました。)

有機リン系の神経剤は、元々は、ジャガイモにつく害虫を駆除するために研究されていたもので、1937年にタブンが発表されました。それに目を付けたドイツ軍は発表を禁止し、兵器として開発が続けられました。その結果、1938年にサリン、1944年にソマンと開発が進みました。

第2次世界大戦は終結しましたが、その後も冷戦構造の中で研究が進められ、1950年代にVXが生まれました。なんとサリンの700~1000倍もの殺傷力を持つといわれています。

ですが、装備をして訓練を積んだ兵士・軍隊が相手では、化学兵器の効果は半減します。その為、無防備な民間人が対象となる事が多く、非人道的と言われる所以もそこにあります。

これら化学兵器は、民生産業と密接に関連しています。前述しました様に、有機リン系の神経剤は農薬の研究が元ですし、それは今でも変わらず、農薬(殺虫剤)と化学兵器は紙一重です。塩素ガスは、当時は、パルプ産業に使われる水酸化ナトリウムを生産する時の副生物で、今では、ポリ塩化ビニルの原料や水道水の殺菌に使われています。使い方により、毒にも薬にもなる訳で、冒頭のトリカブトの話にもつながります。

なお、これらの化学兵器の事を、よく毒ガスと呼びますが、

サリンの沸点は158℃、VXでは沸点は無く、298℃で分解

と常温では液体ですので、ガスと呼ぶのは不正確です。これらの化学兵器は、ミスト状に散布することになります。

空気より重いので、下に溜まりますから、伏せるのは不適切です。風上に逃げるのが良いとされていますが、まっすぐ風上に向かえば、正面から毒を浴びることになりますので、少し斜めに逃げる方が良いと考えます。でも、この様な知識が役に立つ日が来ないことを祈ります。

山田 徹