エポキシ樹脂の安全保障貿易管理
1.はじめに
エポキシ樹脂を輸出する際に該非判定が必要となる項・番を調べた。
同樹脂についての該非判定に関する問い合わせはこれまで殆どなかった。
耐熱性等機能がエンジニアプラスチックスと汎用樹脂の中間に位置する為、安全保障貿易管理の対象となることが少ない為と考える。
最近になり超耐熱性を持つエポキシ樹脂(動的粘弾性測定Tg:350℃)や、炭素繊維強化プラスチック(CFRP)のマトリックス樹脂として好ましい高耐熱で且
低粘度なエポキシ樹脂が開発されてきた。CFRPをはじめとする繊維強化複合材は
航空機、車、風力ブレード用途への大きな伸びが今後期待されている。エポキシ樹脂の
2014年の国内需要は12.4万トン、輸出は1.3万トンである。(化学工業日報 2015年)全世界の需要は約300万トンと推定できる。
永年開発に携わってきたエポキシ樹脂がどのような規制を受けるか調べたいと思っていた。本報告は一連の調査結果を纏めたものである。
2.エポキシ樹脂の化学
1分子中にエポキシ基を2個以上持つ分子量300~8000程度の比較的低分子のポリマー(プレポリマー)及びそのエポキシ基の開環反応により生じた3次元橋架け
構造を持つ熱硬化樹脂をエポキシ樹脂と言う。(岩波理化学辞典15版)プレポリマーと熱硬化した樹脂の両方が同名で称されるため紛らわしい。
ビスフェノールAとエピクロロヒドリンから合成される図1のような構造をしたものが代表的なプレポリマーである。
図1 ビスフェノールA型エポキシプレポリマーの化学構造
その他にもビスフェノールF型、AD型の等様々な骨格を持つプレポリマーがある。
3次元橋架け構造を作るにはプレポリマーと反応する硬化剤が必要である。ポリアミン、ポリチオール、ポリフェノール、酸無水物が主たる硬化剤として用いられる。
(図2)
図2 開環反応(硬化反応)
プレポリマーの種類と硬化剤の組み合わせで物性は変化するが、生成熱硬化樹脂は
不融、不溶で接着性、耐水性、耐薬品性、寸法安定性、電気絶縁性に優れる。
このため接着剤、塗料、積層板等の複合成形品材料、半導体封止材に用いられる。
開環反応前のプレポリマー、硬化剤は低粘度であり、これの混合物は含浸性が良い。
このため複合材成形品はプリプレグを経由して成形されることが多い。
ガラスクロス、炭素繊維のような繊維状補強部材にプレポリマー、硬化剤、添加剤
の混合物を含浸したものを加熱又は乾燥し半硬化状態にした繊維強化プラスチック複合体をプリプレグと言う。(図3)
図3 プリプレグを経由した成形
3.調査方法
以下の方法で関連項番を抽出した。
(1)経産省HPにある貨物・技術の合体マトリックス表(Excel版)で
平成29年6月1日施行の改正内容を反映したもの使いエポキシ
樹脂をキーワードに検索し記載内容を調べた。
(2)関係法令集(改訂第22版)の輸出令別表第1、貨物等省令を使い、エポキシ樹脂が関係する複合材成形品又はプリプレグ等の規制内容を調べた。
(3)(2)で抽出した貨物に対応する外為令別表1、貨物等省令から規制技術を抽出した。
4.エポキシ樹脂への規制(貨物)
4.1 エポキシプレポリマー
エポキシプレポリマーは16項に該当する。輸出の際はキャッチオール規制要件の該非を検討する必要がある。ちなみにHSコード番号は3907-30である。
4.2 硬化エポキシ樹脂
調査結果の詳細を末尾の表1に纏めた。該非判定が必要な項番は6件あった。
(1)いずれも複合材料成形品、プリプレグ・プリフオームに関するものである。
(2)多くの場合用途、使用される繊維の強度等、サイズが限定されている。
(3)マトリックス樹脂の特性を規定したものは5(18)にみられた。
各項番の要点を表2に示した。
表2 規制の要点
例外はあるが、複合材成形品、プリプレグ等に関してはマトリックス樹脂よりも
使用される繊維材料等の仕様に重点が置かれている。
5.エポキシ樹脂への規制(技術)
4章で述べた輸出令別表第1項・番に対応する技術の規制状況について次に調べた。
結果を表3に纏めた。
複合材に関しては必要な技術が多くの場合規制されていることが特徴である。
必要な技術とは規制の性能レベル、特性若しくは機能に到達し又はこれを越える
為に必要な技術を言う。単なる技術ではないことに注意が必要である。
表3 技術規制
6.まとめ
エポキシ樹脂を取り上げ輸出の際に該非判定が必要となる項・番を調べた・
全体として7件の項番のあることがわかった。
複合材成形品に関するものが主であったが、樹脂そのものの機能が規制の対象となることは少なかった。本調査が何かに役立てれば幸いである。
中村英夫