質量分析計の米国での輸出規制
１．はじめに
米国製質量分析計の輸出該非を判定する機会があり、質量分析計の米国での輸出規制について調べた。米国輸出規則には域外規制が存在し、米国原産品、直接製品は再輸出の際に米国の輸出許可が必要となる恐れがある為である。
貨物、技術の輸出は日本では外為法で規制される。一方米国では、Export Administration Regulations (EAR商務省）以外にも他の省庁が所管する法、規則が存在し規制体系は複雑である。（表１）
表１．米国の輸出管理法・規則＊１
＊１：EAR §734 Scope of Export Administration Regulations .3.(b) 及びJETRO
www.JETRO.go.jp/world/n_america/us/trade_02.htmlを参照した
調査はEARから開始した。EARでの記載内容を糸口に芋づる方式で関係する他の法、規則を当たった。質量分析計は武器ではないと考えるが、軍需品リストで国際武器取引規則（ITAR）での規制の有無を念のために確認した。
質量分析計はNSGで規制のガイドラインが決定され、加盟各国はこれを受け独自の規制を策定、実行することになっている。＊２ 米国の規制内容もNSGガイドラインに対応するものでなければならない。調査結果とNSGガイドライン及び外為法との対応関係を纏め考察
した。
本報告はこれらの一連の結果を纏めたものである。
２．調査方法
２．１ 質量分析計のECCN
BIS(Bureau of Industry and Security) HPのRegulations ＞ Commerce Control
List IndexでMass spectrometersを検索し
（１）Mass spectrometers & ion sources (UF6 enrichment plant) 3A233
（２）Mass spectrometers, n.e.s. 3A999.b
を得た。3A233、3A999.bについてはCommerce Control List Category 3 で規制の
詳細を調べた。
２．２ 他の規制の有無と内容調査
各ECCN中のList of Items Controlled ＞ Related Controls に関連する他の規制に
ついての記載がある。これを糸口とし関連法規を調べた。
3A233の場合はタイトルにもNRC規制品目は除くと記載があるので参考にした。
２．３ NRCでの規制
Home ＞ NRC Library ＞ Document Collections ＞ NRC Regulations
（１０CFR）＞ Part Index（Part110：Export and import of nuclear equipment
and material） ＞ §110.8 List of nuclear facilities and equipment under NRC Export
Licensing Authority ＞ Appendix C to Part 110 ―Illustrative List of Gaseous
Diffusion Enrichment Plant Assemblies and Components Under NRC Export
Licensing Authority Note＞2.Auxiliary systems, equipment, and components especially designed or prepared for use in gaseous diffusion enrichment ＞ 2.5 UF6 Mass Spectrometers /Ion Sources
の順にサイトを開き内容を確認した。
２．３ ITAR（22CFR 120～130）での規制
https://www.gpo.gov/fdsys/granule/CFR-2012-title22-vol1/CFR-2012-title22-vol1-part226/content-detail.html ＞ Title 22 – Foreign Relations ＞Chapter 1
DEPARTMENT OF STATE ＞ Subchapter M INTERNATIONAL TRAFFIC IN
ARMS REGULATIONS ＞ Part 120 PURPOSE AND DEFINITIONS、Part 121 The United States Munition List
に従いリストを開き、質量分析計への規制の有無を調べた。
www009.upp.so-net.ne.jp/kgm1_ear/index_itar.htm にITARの日本語訳がある。
www.dtic.mil/dtic/tr/fulltext/u2/a312382.pdfでもITARにアクセス可能であるが
開くまで時間を要する。
３．調査結果
３．１ EARでの規制
３．１．１ ３A２３３の規制内容
（１）規制される仕様
規制される質量分析計の仕様を外為法での仕様（輸出令別表第１の２項（３２）、貨物等省令1条３７号）と比較した。（表２）仕様は良く一致していることがわかった。
なお原子力規制委員会（NRC）の輸出許可権限内にあるものは規制されない。
表２．３A２３３で規制される仕様
（２）規制理由と地域
規制理由はNP、ATである。双方とも規制地域はカントリーチャート（CC）のColumn 1
で決定される。NP理由では、中国を除いたNSG参加国とリヒテンシュタインへの米国
からの輸出は規制対象から外れている。一方、外為法では全地域が規制対象である。
（３）許可例外
LVS、GBS、CIVは適用外。
（４）関連規制
3A233該当の質量分析計の技術は3E001（開発、製造）、3E201（使用）に該当する。
規制理由はNP、ATで、規制地域もCC Column 1で決定される。
UF６ガス流に直結し、連続的に採取した資料を分析できるよう特別に設計、製造され
た質量分析計はNRCでの輸出規制の対象でありEARでは規制されない。
Mass spectrometers “specially designed” or prepared for analyzing on-line samples
of UF6 gas streams are subject to the export licensing authority of the Nuclear
Regulatory Commission (see 10 CFR part 110)。
これに関してはNRCでの規制の項で述べる。
３．１．２ ３A９９９.bの規制内容
（１）規制される仕様
他のエントリーで特定されない特定の加工・処理装置が3A999で規制される。
Specific processing equipment, n.e.s.as follows (see List of Items Controlled).
n.e.s : not elsewhere specified
質量分析計はitems ｂの貨物であり、ECCN 3A233で特定されない全てのものがこの
疇に入ることになる。
（２）規制理由と地域
規制理由はATであり北朝鮮への輸出、再輸出は許可を取得しなければならない。
本アイテムの規制地域は以下に示す§742.19に基づく。
- 742.19 ANTI-TERRORISM: NORTH KOREA
(a) License requirements
(1) All items on the Commerce Control List (CCL) (i.e., with a designation other than EAR99) that are controlled for anti-terrorism reasons require a license for export or reexport to North Korea. This includes all items on the CCL containing AT column 1 or AT column 2 in the Country Chart column of the License requirements section of an ECCN; and ECCNs 0A986, 0A988, 0A999, 0B986, 0B999, 0D999, 1A999, 1B999, 1C995, 1C999, 1D999, 2A994, 2A999, 2B999, 2D994, 2E994, 3A999, and 6A999. See also part 746 of the EAR.
（３）許可例外
LVS、GBS、CIVは適用外
（４）関連規制
NRC（10 CFR Part 110 ）で規制される質量分析計はEARの規制外であることが
ここでも記載されている。
３．２ NRCでの規制
EARの規制から除かれる質量分析計のNRCでの輸出・再輸出規制について調べた。
UF6の分離装置のガス流に取り付けられオンラインで分析可能となる質量分析計が規制
対象で許可が必要となる。輸出令別表第１２項7号 貨物等省令1条７号 解釈での規制仕様と良く対応していることが表３から確認できる。
表３ NRCで規制される仕様
貨物等省令1条７号 解釈で規制される質量分析計は貨物等省令1条３７号で
除かれている“ヘ”に相当する。（表１参照）
３．３ ITARでの規制
Part 121 The United States Munition List で質量分析計が関係する可能性のある以下の４カテゴリーについて調べた。
Category XI—Military Electronics
Category XIII— Materials and Miscellaneous Articles
Category XVI—Nuclear Weapons Related Articles
Category XXI—Articles, Technical Data, and Defense Services Not Otherwise Enumerated
質量分析計はリストには無くITARでの規制には該当しないと判断した。
４．結果のまとめ
質量分析計の米国での輸出規制について調べ以下のことがわかった。
（１）管理規則はEAR、NRCに渡るが米国の管理もNSGガイドラインに沿ったものとなっている。
表４．米国の輸出管理とNSGガイドライン、外為法との関連＊２
＊２：NSGガイドラインと外為法の関連は先の本ブログでの報告“外為法で規制される質量分析計に於ける分解能に関する考察”中村英夫（2018）を参照した。
（２）但し3A233と外為法の規制地域は異なる。
（３）米国では3A233で特定されない質量分析計が更に3A999.bで特定され北朝鮮への輸出が規制される。
上述の調査結果から、今回の調査方法は対象となる米国の輸出規則の抽出、詳細調査
に有用であると考える。
本報告が参考になれば幸いである。
中村英夫