ポンプに関する外為法リスト規制
1.はじめに
液体や気体を吸引し、これらを送り出し又は排出するポンプの用途は工業分野から民生分野まで広範である。我々の生活や産業のあらゆる分野で欠かせないものと言っても過言ではない。当然その種類も大きさや用途によって多種多様である。
どのようなポンプが外為法リスト規制に該当するのであろうか。
この疑問を明らかにすべく、外為法でのポンプ規制の現状及びその背景を調べた。
本報告はこの一連の調査結果を纏めたものである。
2.調査方法
経産省HP(安全保障貿易管理)に存在する“貨物のマトリックス表”を本調査に使用した。まず本表の検索機能を利用し文字列=ポンプとして23セルを抽出した。(図1)更に抽出されたセルに関し内容を調べ、ポンプに関する規制項番と関連省令、解釈を明らかにした。
図1 検索結果
3.調査結果と考察
調査結果を表1に纏めた。
2項、3項、4項、13項の中8つの項番でポンプは規制されていることがわかった。
表1 外為法で規制されるポンプ
項番 | 中欄貨物 | 貨物等省令 | 解釈 |
No.1
2(2) |
原子炉若しくはその部分品若しくは附属装置又は原子炉用に設計した発電若しくは推進のための装置 | 第1条第2号
原子炉若しくはその部分品若しくは附属装置又は車両、船舶、航空機若しくは宇宙空間用若しくは打ち上げ用の飛しょう体の原子炉用に設計した発電若しくは推進のための装置 |
原子炉の附属装置:
原子炉本体の外側に据え付けるために設計又は製造されたものであって、次のいずれかに該当するものをいう。(イ~へ) ロ: 一次冷却材を循環させるポンプ又は循環装置 |
N0.2
2(6) |
リチウムの同位元素の分離用の装置又は核燃料物質の成型加工用の装置 | 第1条第六号
リチウムの同位元素の分離用の装置又は核燃料物質の成型加工用の装置 |
リチウムの同位元素の分離用の装置(イ~ヘ):
ロ:水銀、又はリチウムアマルガム用のポンプ |
No.3
2 (10) |
重水素若しくは重水素化合物の製造に用いられる装置又はその部分品若しくは附属装置 | 第1条第十号(イ~ロ)
ロ 重水の製造に用いられる装置又はその部分品若しくは附属装置であって、次のいずれかに該当するもの(イに該当するものを除く。) (一~六) (六):カリウムアミドを含む液化アンモニアを循環させることができるポンプであって、次の1から3までのすべてに該当するもの 1 気密な構造のもの 2 1.5メガパスカル以上60メガパスカル以下の圧力範囲において用いることができるもの 3 吐出し量が1時間につき8.5立方メートルを超えるもの |
貨物等省令第1条の第十号ロ(六)中の気密な構造のもの:
キャンドポンプ、マグネットポンプ、ベローズポンプ又はダイヤフラムポンプをいう。 |
N0.4
2 (35) |
ウランの同位元素の分離用の装置に用いられる真空ポンプ(3の項の中欄に掲げるものを除く。) | 第1条第四十号
真空ポンプであって、吸気口の内径が38センチメートル以上のもののうち、排気速度が1秒当たり15,000リットル以上で、かつ、到達圧力が13.3ミリパスカル未満のもの |
排気速度
空気又は窒素ガスを用いて測定した値をいう。 到達圧力 全閉にした状態の吸気側において到達できる圧力をいう。 |
N0.5
2 (35の2) |
スクロール型圧縮機又はスクロール型真空ポンプであつて、ベローズシールを用いたもの((35)及び3の項の中欄に掲げるものを除く。) | 第1条第四十号の二
スクロール型圧縮機又はスクロール型真空ポンプであって、ベローズシールを用いたもののうち、次のイからハまでの全てに該当するもの イ 吸気量を1時間あたり50立方メートル以上とすることができるもの ロ 圧力比を2以上とすることができるもの ハ プロセスガスに接触する全ての面が次のいずれかの材料で構成され、裏打ちされ、又は被覆されたもの (一) アルミニウム又はアルミニウム合金 (二) 酸化アルミニウム (三) ステンレス鋼 (四) ニッケル又はニッケル合金 (五) 燐(りん)青銅 (六) ふっ素重合体 |
ふっ素重合体
次のいずれかに該当するものを含む。 イ ポリテトラフルオロエチレン(PTFE) ロ 四フッ化エチレン・六フッ化プロピレン共重合体(FEP) ハ テトラフルオロエチレン・パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA) ニ ポリクロロトリフルオロエチレン(PCTFE) ホ フッ化ビニリデン・ヘキサフルオロプロピレン共重合体 |
No.6
3(2) |
次に掲げる貨物であつて、軍用の化学製剤の製造に用いられる装置又はその部分品若しくは附属装置であるもののうち経済産業省令で定める仕様のもの | 第2条2項
輸出令別表第1の3の項(2)の経済産業省令で定める仕様のものは、次のいずれかに該当するものとする。 |
製造に用いられる装置
製造に用いることができる装置をいう。 |
3(2)9 | ポンプ又はその部分品 | 第2条2項第九号
二重以上のシールで軸封をしたポンプ若しくはシールレスポンプであって最高規定吐出し量が1時間につき0.6立方メートルを超えるもの若しくは真空ポンプであって最高規定吐出し量が1時間につき5立方メートルを超えるもの又はこれらの部分品として設計されたケーシング、ケーシングライナー、インペラー、ローター若しくはジェットポンプノズルのうち、内容物と接触するすべての部分が次のいずれかに該当する材料で構成され、裏打ちされ、又は被覆されたもの イ ニッケル又はニッケルの含有量が全重量の40パーセントを超える合金 ロ ニッケルの含有量が全重量の25パーセントを超え、かつ、クロムの含有量が全重量の20パーセントを超える合金 ハ ふっ素重合体 ニ ガラス ホ 黒鉛又はカーボングラファイト ヘ タンタル又はタンタル合金 ト チタン又はチタン合金 チ ジルコニウム又はジルコニウム合金 リ セラミック ヌ フェロシリコン ル ニオブ又はニオブ合金 |
シールレスポンプ
内容物が漏れない構造であるものをいう。 最高規定吐出し量が1時間につき5立方メートルを超えるもの 温度が摂氏0度かつ圧力が101.30キロパスカルの状態における最高規定吐出し量で、1時間につき5立方メートルを超えるものをいう。 |
No.7
4(5) |
推進薬の制御装置に用いられる貨物であつて、次に掲げるもの
1 サーボ弁 2 ポンプ 3 ガスタービン |
第3条第六号
推進薬の制御装置に用いられるサーボ弁、ポンプ又はガスタービンであって、次のイ及びロに該当するもののうち、ハ、ニ又はホのいずれかに該当するもの イ 液体状、スラリー状又はゲル状の推進薬の制御装置に使用するように設計したもの ロ 周波数範囲が20ヘルツ以上2,000ヘルツ以下で、かつ、加速度の実効値が98メートル毎秒毎秒を超える振動に耐えることができるように設計したもの ハ 絶対圧力が7,000キロパスカル以上の状態において1分につき0.024立方メートル以上流すことができるように設計したサーボ弁であって、アクチュエータの応答時間が100ミリ秒未満のもの ニ 液体推進薬用のポンプであって、最大動作時の軸の回転数が1分につき8,000回転以上のもの又は吐出し圧力が7,000キロパスカル以上のもの ホ 液体推進薬のターボポンプ用のガスタービンであって、最大動作時の軸の回転数が1分につき8,000回転以上のもの |
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No.8
13 (3) |
ロケット推進装置又はその部分品 | 第12条第六号
液体ロケット推進装置の部分品であって、次のいずれかに該当するもの(イ~チ) ニ 17.5メガパスカルを超える吐出圧のターボポンプ若しくはその部分品又は当該ターボポンプのためのガス発生器若しくはエクスパンダーサイクルタービン駆動装置 |
表1から以下のことが分かった。
1.大量破壊兵器に関連する項番のポンプが規制されている。
(13項のポンプもロケットの推進装置に関する物であり上記範疇のものと
考える)
2.規制該当の送液、真空ポンプの吐出量、排気量等は総じて大きい。
3.規制される項目は用途によって異なるが、各項番とも用途又は構造が規制されている。(表2)
表2 項番ごと規制項目纏め
規制項目 | 項 番 | |||||||
2(2) | 2(6) | 2(10) | 2(35) | 2(35-2) | 3(2)9 | 4(5) | 13(3) | |
用途(限定) | 〇 | 〇 | 〇 | |||||
構造 | 〇 | 〇 | 〇 | 〇 | 〇 | 〇 | ||
使用圧力 | 〇 | |||||||
吐出量 | 〇 | 〇 | ||||||
吐出圧力 | 〇 | 〇 | ||||||
排気速度
吐出量/h |
〇 | 〇 | ||||||
到達圧力 | 〇 | |||||||
吸気量/h | 〇 | |||||||
接液部材質 | 〇 | 〇 | ||||||
耐震 | 〇 | |||||||
軸回転数 | 〇 |
〇:規制有
4.まとめ
経産省の“貨物のマトリックス表”を基にして、ポンプに関する外為法リスト規制について調べた。
この結果大量破壊兵器に関連する8件の項番で規制されていることが分かった。規制仕様については表1を参照されたい。
外為法の根拠となる各国際レジームでのポンプ規制についての調査し、外為法にどのように反映されるかを今後考察してみたい。
中村英夫