ポンプ輸出管理に関する国際レジーム指針  ― 外為法規制との対比 ―

1.はじめに

外為法ポンプ規制に対応する国際レジーム輸出管理指針を調べ外為法と対比した。
紳士協定である国際レジームの指針(管理品目及び技術リスト)に基づきその参加国は自国内の法令を定め、輸出管理を実施する。我が国は全ての国際レジーム(NSG:原子力供給グループ、AG:オーストラリア・グループ、MTCR:ミサイル技術管理グループ、WA:ワッセナー・アレンジメント)に参加している。
これらの国際レジーム指針はどのようなもので、外為法にどう反映されるのであろうか。この疑問に答える為に両者を較べてみようと考えた。
ポンプに関する外為法規制を先のブログで纏めたが、これらの規制は全てのレジームに係っている。(表1)そこでポンプ規制を比較対象に取り上げた。

2.調査方法
各レジームのHPを開き外為法規制項番に対応する貨物リストを探した。

表1.外為法規制と対応する国際レジーム

 

3.結果と考察

結果を表2に纏めた。当初予想したよりも短時間で対応する項目を抽出できた。
各レジームのリスト貨物・技術分類体系は外為法と相違する。しかし、貨物の形態、用途等の知識がある程度あれば、レジームの分類に沿い下位階層に進むことで目的貨物に到達できることが分かった。
レジームでの仕様は外為法と殆どの場合良く一致していたが、相違するものもあった。
外為法と各レジームで相違のあった項番(項目)と内容について以下に紹介した。

(1) 2(10)
大筋は良く一致しているが、細かい点で次の相違があった。
◆規制するポンプの仕様の第一に“気密な構造のもの”がある。
キャンドポンプ、マグネットポンプ、ベローズポンプ又はダイヤフラムポンプが
気密な構造のものであることを外為法は解釈で明示している。一方NSGでは
“Airtight (i.e., hermetically sealed 訳:即ち密閉されていること)” の記述のみで、
ポンプの型式は限定されていない。レジームの方が規制範囲は広い。

◆ “1.5メガパスカル以上60メガパスカル以下の圧力範囲において用いることができるもの”が外為法での2番目の仕様である。NSGにも用いられる圧力範囲に関しての仕様項目はある。送液するカリウムアミドの液体アンモニア溶液の濃度を1%以上、1%未満に分けそれぞれの使用圧力範囲をNSGは規定している。

  1. For concentrated potassium amide solutions (1% or greater), an operating pressure of 1.5 to 60 MPa; or
  1. For dilute potassium amide solutions (less than 1%), an operating pressure of 20 to 60 MPa.

外為法では全ての濃度に対し規制圧力範囲は同一であり、この場合規制範囲は広くなっている。

(2)3(2)9
外為法とAGグループ指針の規制仕様を以下に示した。
外為法(貨物等省令2条2項九号)
二重以上のシールで軸封をしたポンプ若しくはシールレスポンプであって最高規定吐出し量が1時間につき0.6立方メートルを超えるもの若しくは真空ポンプであって最高規定吐出し量が1時間につき5立方メートルを超えるもの又はこれらの部分品として設計されたケーシング、ケーシングライナー、インペラー、ローター若しくはジェットポンプノズルのうち、内容物と接触するすべての部分が次のいずれかに該当する材料で構成され、裏打ちされ、又は被覆されたもの

AGグループ指針
Multiple-seal and seal-less pumps with manufacturer’s specified maximum flow-rate greater than 0.6 m3/h, or vacuum pumps with manufacturer’s specified maximum flow-rate greater than 5 m³/h (under standard temperature (273 K (0o C)) and pressure (101.3 kPa) conditions), and casings (pump bodies), preformed casing liners, impellers, rotors or jet pump nozzles designed for such pumps, in which all surfaces that come into direct contact with the chemical(s) being processed are made from any of the following materials:

AGグループ指針中のand が外為法では又はとなっている点が相違する。
AGグループ指針では①特定の吐出量のシールポンプ若しくは特定の吐き出し量の真空ポンプの中で②部分品として設計されたケーシング、ケーシングライナー、インペラー、ローター若しくはジェットポンプノズルの内容物との接触部分が特定の材料で構成、裏打ち、被覆されたものが規制対象となる。
外為法では特定の吐出量のシールポンプ若しくは特定の吐き出し量の真空ポンプの中で部分品として設計されたケーシング、ケーシングライナー、インペラー、ローター若しくはジェットポンプノズルの内容物との接触部分が特定の材料で構成、裏打ち、被覆されたものだけでなく、接触部分が特定の材料で構成、裏打ち、被覆されないケーシング、ケーシングライナー、インペラー、ローター若しくはジェットポンプノズルを部分品とするものも規制対象と解釈できる。このことは①特定の吐出量のシールポンプ若しくは特定の吐き出し量の真空ポンプを規制したと同じである。わざわざ部品材質の仕様を記載する必要はなくなる。

前後の状況を考慮すると又はを及びと変える方が妥当であると考える。

 

4.まとめ

国際レジームがどのようなものか興味をもち、ポンプに関する外為法規制を対象に取り上げ、対応するレジーム指針を調べ外為法と比較した。
外為法と各レジームはリスト貨物・技術の上位分類の仕方は相違するがある下位階層から全体的に非常に良く両者は一致していることを確認した。
ポンプに関しては2(10)、3(2)9に相違が見られたので考察した。
国際レジーム参加国はレジーム輸出管理指針(管理品目及び関連技術リスト)に基づき自国内の法令を整備し輸出管理を実施することになっており、必ずしも規制は同一でなくても良いと考えるが、機会があれば今回の相違の意味を確かめてみたいと思う。

以上

中村英夫

表2.外為法と国際レジームの対比