外為法と韓国、サムソン電子、そして米国

1.はじめに

2019年7月4日に日本政府は外為法の見直しを行い、韓国向け輸出3品目の輸出管理を強化して個別の輸出審査をすることにした。して2019年8月28日に輸出管理上の国カテゴリーを見直して3分類から4分類とし、韓国をホワイト国(現Aグループ)からBグループにした。
このような日本政府による輸出管理の厳格化に対して韓国は、GSOMIA(General Security of Military Information Agreement日韓の軍事情報包括保護協定)の破棄を通告した。しかし米国からの破棄再考要求もあって、韓国は11月22日にGSOMIA維持を決定した。

2.韓国向け輸出規制3品目について

韓国向け輸出3品目は従来からも外為法でリスト規制されている品目であって、今回規制値が変更されたわけではない。なお今回の規制は化学品3品目ということではなく、当該製造設備や製造技術も含まれるていることはいうまでもない。
もともと先端材料・先端技術はデュアルユースされるものなので、外為法第1条に「対外取引に対し最小限の管理又は調整を行うことにより……国際社会の平和及び安全を期し…」と記載されている。

次に3品目について、具体的に説明する。表1に3品目の輸出令/省令/規制値/用途等を整理した。

①フッ化水素
フッ化水素は、半導体ウエハー(シリコン基板)の洗浄工程のエッチングガスであって、規制値は30%超である。
エッチングガス用のフッ化水素には(ⅰ)ドライエッチング用の高純度フッ化水素ガスと、(ⅱ)ウエットエッチング用の高純度フッ酸の2種類がある。
特に高性能半導体向けにはファイブナイン以上の高純度が必要である。

②フッ化ポリイミド
経済産業省から3品目の管理強化が発表された当初、フッ化ポリイミドはスマートフォンのフォウルダブル用フィルム材料であるという報道があった。しかしながらそのような民間用ではなくて、フッ化ポリイミドはPESやPENといったスーパーエンジニアリングプラスチックスの中でも特に低誘電率であることから、半導体の封止剤や基板に展開されることが想定される。

③レジスト
半導体回路をシリコンウェハーに形成する際の露光工程での感光剤であって、規制値からEUV(Extreme UltraViolet;極端紫外線)レジストのことである。特にデータセンターの情報処理を担うCPU(中央演算処理装置)用半導体は、回路線巾として7nmが要求される。

表1.輸出規制された3品目について

品目 輸出令 省令 規制値 用途 韓国需要家
フッ化水素 3項
(1)
第2条
1項一ヘ
30%超 半導体ウエハーの洗浄工程のエッチングガス。高性能半導体向けには99.999%以上の高純度が必要。 サムソン電子
SKハイニックス
フッ化ポリイミド 5項

(17)

第4条
十四ロ
ふっ素が10%以上 スマートフォンのディスプレイ用フィルム材料。 サムソン電子

LGエレクトロニクス

レジスト 7項

(19)

第6条
十九
(注1)
EUV(Extreme UltraViolet;極端紫外線)レジスト 半導体回路をシリコンウェハーに形成する際の、露光工程での感光剤。回路線巾 7nm。 サムソン電子

注1.十九 レジストであって、次のいずれかに該当するもの又はそれを塗布した基板

イ 半導体用のリソグラフィに使用するレジストであって、次のいずれかに該当するもの
(一)15nm以上193nm未満の波長の光で使用するように最適化したポジ型レジスト
(二)1nm超15nm未満の波長の光で使用するように最適化したレジスト

ロ 電子ビーム又はイオンビームで使用するために設計したレジストであって、
0.01マイクロクローン毎平方ミリメートル以下の感度を有するもの

ハ 削除

ニ 表面イメージング技術用に最適化したレジスト

ホ 第十七号へ(二)に該当するインプリントリソグラフィ装置に使用するように設計又は最適化したレジストであって、熱可塑性又光硬化性のもの

3.考察

フッ化水素とレジストは半導体を製造する際の必須の材料であり、上記2②に記載したように、フッ化ポリイミドも半導体用途である。
現代技術の主題となっているAI,自動運転、5Gも、半導体がベースとなる。「中国2025」も半導体自給率を2020年までに40%、2025年までに70%としている。このことを米国が強く認識している結果、日本政府も半導体関連技術の輸出管理強化を打ち出したものであろう。
今回の日本と韓国間の交渉も、両国の米国への配慮の結果であった。
パナソニックが半導体から撤退することが報じられているが(日経新聞2019年11月29日朝刊)、輸出管理強化をするだけでなく日本の半導体事業を如何にすべきかを考えて頂きたい。

表1に示したように、3品目とも輸出先としてサムソン電子がある。日本政府が2019年8月8日にJSRにレジストのサムソン電子向け輸出を許可しており、2019年8月30日にステラケミファにフッ化水素のサムソン電子向け輸出を許可したように、韓国向け輸出3品目は個別審査により輸出が行われている。

今後の韓国向け輸出管理では一般包括許可は使用できないが特別一般包括許可は使用可能であること(但し、上記3品目には使用できない)、またキャッチオール規制には注意する必要があることを銘記されたい。

以上

横堀 勝一