炭素繊維強化複合材料の成形技術及び成形体の力学特性

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1.はじめに

炭素繊維は鋼に比べ軽く、強く、固い。比重は1/4、比強度は10倍、比弾性率は7倍である。炭素繊維と樹脂が混合された複合材料からの成形体も同様な特徴を持ち、主として構造材に使われている。
スポーツ用途、航空機2次構造材への用途開発が1970年代初に開始され、1990年代にはボーイング777の1次構造材に使用されるに至った。
2000年代に入り環境保護の機運が高まり軽量化によるCO2排出低減を目的に航空機に加え自動車の各種部位への用途展開が図られている。最近では炭素繊維の卓越した性能(強度、弾性、電磁シールド性)が重要視される土木建築材、電子情報機器、産業機械への適用も進んでいる。
炭素繊維強化複合成形体は高性能な大量破壊兵器、通常兵器の開発にも結び付く可能性があり当然のことながら原材料を含め外為法により特定の仕様のものはリスト規制されている。
本年(2021年)1月27日に施行された政省令等改正で炭素繊維の規制が一部緩和された。
貨物等省令第4条二号ロ(一)で規定される仕様の炭素繊維を強化材とした成形品のうち、25mm以下に切断又は粉砕された炭素繊維が使用されたものは規制対象外となった。長さが25mm以下の炭素繊維を使用した成形体の力学特性は負荷のかかる用途利用には十分でないためと予想できる。
同省令第4条十五号ロ、ホで25mm以下に切断又は粉砕された炭素繊維、これを使用したプリプレグ、プリフォームは既に対象外となっている。
25mm前後で特性がどのように変わるのかについて興味を持ち、繊維長と特性を取り扱った記事、文献をインターネットで探した。今回の調査では定量的で明確な答えは残念ながら見つけられなかったが、炭素繊維、これを用いた複合材料に関する多数の知見を得ることができた。これらを纏め、繊維長に着目して炭素繊維強化複合材料の成形技術、成形体の力学特性を眺めてみた。

2.炭素繊維

2.1短繊維、長繊維
ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典での説明を纏めた。

短繊維(staple fiber)
綿や羊毛のように短い繊維のこと。綿は数センチ,羊毛もせいぜい 10cmぐらいの長さで,そのままでは糸にならないため,よりをかけて紡績する必要がある。短繊維を糸にしたものを紡績糸 (スパン糸) と呼んでいる。化学繊維の場合,長短は自由にできるが,普通 2.5~3.8cm以下のものを短繊維とする。

長繊維
絹のように細長く連続したきわめて長い繊維のこと。通常,フィラメントと呼んでいる。
1匹の蚕が変態の過程でつくる繭からとれる生糸の長さは 1000m以上にも及ぶ。生糸は代表的な長繊維と言える。化学繊維の場合は長短自由な長さの繊維をつくることができるので,レイヨン,ナイロン,ポリエステルなどあらゆる化学繊維に長繊維,短繊維がある。長繊維はよりをかけないか,またはわずかなよりをかけることによって,紡績の方法によらず糸にできる。これをフィラメント糸と呼び,紡績糸と区別する。

2.2 炭素繊維の1次形態と成形法、用途 1)

炭素繊維は中間材となる1次加工品にされた後、炭素繊維強化複合材料(CFRP)に更に加工される。図1は1次形態と対応する成形法、用途を纏めたものである。1)

図1 1次加工品形態と主な成形法、用途

図のように4つの形態がある。“チョップド”の繊維長さは3~25mmとされている。
これの成形法はコンパウンドと記載されているが量産性の記載内容から主に射出成形と思われる。本文献では炭素繊維の成形法に関しての纏めもある。(表1)

表1炭素繊維の主な成形方法

不連続繊維を使う射出成形は量産面で有利であるが成形体の物性面で不利であり、高い苛重を負担する構造部材としての適用は難しいことが分かる。

3.炭素繊維強化プラスチックスと成形法

表2は特許庁のH28年度 特許出願技術動向調査報告書(概要)2)の中に「炭素繊維強化プラスチックスの成形法」として掲載されたものである。
三菱化学テクノリサーチで纏められた本表は、他の2~3の資料にも引用されている。
力学特性は表1同様に◎、〇、△、×で表現され又各々の基準が記載されてないのが残念である。表中の樹脂、繊維欄で炭素繊維強化プラスチックの内容が分かる。又繊維の形態、成形法、力学特性、成形時間の現状の姿がこの表で理解できる。

表2 炭素繊維強化プラスチックスの成形法

繊維長に着目して表1を見ると以下のことが分かる。

  1. SMC(Sheet Molding Compound)成形を含むプレス成型、射出成形のみが
    チョップド糸を使用している。短繊維を使用する成形法は熱硬化性樹脂、熱可塑性樹脂とも成形時間が短い特徴がある。
  2. 25mm以下の繊維を使用する場合の力学特性は×の部類に入ると予想できる。この表からは25mmは×と×~△の境界であると言える。
  3. 力学特性の良いものをいかに短時間で成形するかが大きな技術課題である。

4.シートモールディングコンパウンド(SMC)

図2に一般的なSMCの製造装置を示した。3)
図2 SMC製造装置

下部フィルムに所定の厚みで熱硬化樹脂を塗布し、樹脂の上に切断された繊維を均一に分散する。次に樹脂の塗布された上部フィルムが圧着され、更にラミネート加工される。
ラミネート加工されたフィルムは最終的に巻き取られる。SMCはプレス成形され実用に供される。
ラミネート加工されたフィルムは最終的に巻き取られる。SMCはプレス成形され実用に供される。

三菱ケミカル株式会社は自動車用途に炭素繊維シートモールディングコンパウンド(CF-SMC) 「STR120N131」を開発し、トヨタ自動車の新型プリウスプラグインハイブリッド⾞「プリウスPHV」のバックドアの⾻格、新型ラグジュアリークーペ「LC500」「LC500h」のドアインナー及びラゲッジインナーに採⽤された。4)日産自動車にも別途採用されている。このSMCは標準弾性率の炭素繊維を1インチ⻑(25mm)にカットしたチョップド繊維を高靱性なビニルエステルをマトリックス樹脂に含浸させたものである。

炭素繊維を強化材としたSMC及び繊維強化複合体に関する三菱レイヨン株式会社(現三菱ケミカル株式会社)の一連の特許がある。5)  再表2016-039326では構成する炭素繊維の長さは5mm以上、60mm以下が好ましいとされている。5mm以上で成形品は必要な機械的特性を有することができる。又60mm以下とすることでプレス成型時に良好な流動性を得ることができる。より好ましい繊維長は25mm以下との記載がある。
特開2013-203773Aでは繊維長は25mm程度の一般的なSMCで用いられる長さで良いとの記載がある。
炭素繊維ではないがガラス繊維/不飽和ポリエステル又はビニルエステル系SMCの繊維構成と成形体の特性を纏めたものがある。(表3)6)

表3 SMC繊維の構成と成形品の性質

使用されているガラス繊維長が全て25mmである点興味深い。SMC製造、成形の一連の工程で25mmとする必然があるのかもしれない。

5.炭素長繊維強化熱可塑性樹脂

繊維強化熱可塑性樹脂はポリプロピレン(PP)やエンプラを中心に強度や剛性を必要とされる自動車部品に使用されている。繊維長を長くすることで更に耐衝撃性や剛性を高めた射出成形可能な材料が長繊維強化樹脂である。7)
樹脂中に繊維を混入する方法は2種の方法がある。

  1. 細かく切断した繊維(短繊維、長繊維)を均一に混合する
  2. 方向性を持たせたまま連続繊維を樹脂に含侵する

炭素繊維の場合の多くは強度物性に有利な(2)が用いられる。8)
図3、4に長繊維強化樹脂ペレット(LFP)の製造法及びペレット概念図を示した。7)
LFPの場合はペレット長と繊維長が同じとなる。

図3 溶融含侵LFP製造法

図4 ペレット概念図

LFPからの成形物の機械強度に影響する要因として① 繊維長 ② 強化材界面接着強度 ③ 繊維配向が挙げられている。7)
溶融粘度の異なるPPを用い炭素繊維を30%含む長さ7mmのLFPを調製し、これらを高せん断及び低せん断条件で射出成形したものの機械強度と繊維長との関係を調べた報告がある。9)
高せん断条件での成形では、溶融粘度に関係なく成形物中の繊維長は0.5mm以下であった。引張強度は低粘度(高MFR)樹脂になるほど高くなった。X線CT画像解析から低粘度PPの方が炭素繊維の配向度は高く、高配向が高引張強度となったと説明されている。
低せん断条件での成形では、粘度が高くなるほど成形物中の繊維は長くなり3~4mmとなった。これに対応しシャルピー衝撃値は高せん断の場合の2~2.5倍になっている。
市販長繊維強化熱可塑樹脂は繊維長10mm前後のものが多い。これを長繊維と呼ぶことに疑問を感じ定義を調べてみた。以下に成書10)の関連部分の要旨を記載した。
マトリックス(樹脂)中に繊維を入れる目的は、材料にかかる荷重を強い材料に持たせることであり、この「荷重の移動」という概念は繊維の長さ全体にわたって起こる。
繊維とマトリックスが破壊することなく、マトリックスにかかった荷重が繊維に完全に移るための繊維の長さを一般的に臨界繊維長という。複合体中の繊維の長さが臨界長より短い場合を短繊維複合体と呼び、長い場合は長繊維複合体と呼ぶ。
臨界繊維長の概念が新たに出てきた。PPの臨界繊維長は室温で約1mm、120℃では2mm以上である。7)

6.まとめ

本調査で炭素繊維及び樹脂からの複合体の能力の高さを改めて認識した。将来25mm以下の繊維長を持つ繊維強化樹脂からでも高強度な成形体を与える成形技術が生まれてほしい。このためには配合技術、個々の成形法の地道な技術開発が重要となることは言うまでもない。まずは射出成形での力学特性の更なるレベルアップを期待したい。

Google、Microsoft Edge を検索エンジンとし、「炭素繊維」、「繊維長」、「繊維強化複合材」、「繊維長25mm除外」、「成形法」、「力学特性」及びこれらの2つをANDで組み合わせたものをキーワードとして検索した。

検索結果の件数が非常に多く、結果として膨大な資料から必要とものを一部だけピックアップしたものとなった。又適切な検索キーワードを確定できず、系統的な調査ができなかったことをお断りしたい。

 

7.文献

1)川上大輔, SENI GAKKAISHI(繊維と工業), Vol.66 No.6, 184(2010).
https://www.jstage.jst.go.jp/article/fiber/66/6/66_6_P_184/_article/-char/ja/

2)特許庁, 平成28年度特許出願技術動向調査報告書(概要)繊維強化プラスチック,
7頁 平成29年3月(2017).
https://www.jpo.go.jp/resources/report/gidou-houkoku/tokkyo/document/index/28_09.pdf

3)日星機械工業株式会社, 特開2020-002334
https://astamuse.com/ja/published/JP/No/2020002334

4)三菱ケミカル株式会社, Automotive Materials 第38号特集 ,(2019).
https://www.m-chemical.co.jp/products/departments/mcc/ams/tech/1207232_7380.html

5)三菱レイヨン株式会社(現三菱ケミカル株式会社),
再表2016-039326,
https://patentimages.storage.googleapis.com/d4/b0/40/ce5c17c944b740/WO2016039326A1.pdf

特開2013-203773A
https://patentimages.storage.googleapis.com/b2/91/69/fc1850edfabc8d/JP2013203773A.pdf

6)ジャパンコンポジット株式会社HP > 事業案内 > SMC >
SMCの一般的な構成と成形品の性質 (引用年月:2021年2月)
https://www.j-comp.co.jp/business/smc_20181228.pdf

7)奥村欽一,浅井俊博, R&D神戸製鋼技報, Vol.47 No.2, 73(1997)
https://www.kobelco.co.jp/technology-review/pdf/47_2/073-076.pdf

8)みんなの試作広場 みんさくHP>よく読まれている記事>樹脂加工に関する記事>
軽量で強度の高い繊維強化プラスチック(FRP)の基礎的な知識を開設~代表的なFRPの性質・用途、成形法>繊維強化プラスチック(FRP)の製造方法とマトリックス

樹脂について(引用年月:2021年2月)
https://minsaku.com/category01/post210/

9)藤和久, 他, 科学・技術研究, Vol.4 No.1, 21 (2015)
https://www.jstage.jst.go.jp/article/sst/4/1/4_21/_pdf/-char/ja

10)Osswald, Menges(著), 武田邦彦 監修, エンジニアのためのプラスチック材料工学,初版,
294頁, シグマ出版(1997年)

中村英夫