経済安全保障推進法案と今後の建設産業 

成立間近な経済安全保障推進法案と機微技術に関わる建設産業について考える。

 政府は本年2月25日、半導体など重要物資のサプライチェーン強化支援などを盛り込んだ「経済安全保障推進法案」を閣議決定、現在国会審議中で5月にも採決の見通しである。

この法案は、米国と中国の覇権争いやロシアによるウクライナ侵攻など地政学リスクに対応して、経済安全保障上重要な物資の安定供給確保や先端技術の強化を図るため、「供給網強化」「先端技術の官民協力」「基幹インフラの事前審査」「軍事転用可能な機微技術の特許非公開」の4分野で構成されている。事前審査制度は電気、ガス、石油、水道、電気通信、放送、郵便、金融、クレジットカード、鉄道、貨物自動車運送、外航貨物、航空、空港の14分野の重要設備が対象だ。設備導入時に、安全保障上脅威となる部品やシステムが含まれていないかどうかを政府が審査し、必要であれば、改善を勧告・命令する。原子力や武器開発への利用が想定される技術については、政府が特許出願後、非公開に指定できる制度も創設する。

建設業法に関わる法案の改正はないが、上記14分野に関わる建設機械の設備・機器は新品・中古を問わず外為法輸出関連法で定められた輸出令や省令で規定する「規制該当品目」であることから、サイバー攻撃の応酬などや今後の政令等の改正に対応して、ますます規制の対象が複雑になり、当センターで行っている関係法令等に照らした輸出規制の該非判定書(パラメータシート等)作成支援業務の重要性もますます高まると考えている。

建設分野は地球の地形、地層の成り立ち、環境の変化、モノづくりの原材料の選定と加工など、調査、予測する手法の確立、評価、設計そして社会資本の基盤となる構造物の構築、その後の維持管理・長寿命化・更新という長い時代の社会資本の形成を担う。

CO2排出量の約6割を占める発電、鉄鋼、化学工業等の多くが立地する臨海部及び都市部では、経済性を優先して鋼材やコンクリートを用いた土地造成や道路、橋梁、住宅等の社会資本を整備してきた。しかし、今後は化石燃料に代わる脱炭素エネルギー転換(カーボンニュートラル)を目指すため、これまで原材料コスト高や材料プロパティの制約から限定的な適用範囲にとどまっていた炭素繊維(鉄と比較して約4分の1の軽さで、鉄の10倍以上の引張強度と優れた疲労強度を持ち、高い耐熱性といろいろな形に成形できる)の革新的な技術開発による製造コストの低減化が今後の建設業界のカギを握る。

炭素繊維の該非判定は、輸出令第5項(18)先端素材、貨物等省令第4条第ニ号、十五号が炭素繊維を使用した成形品に該当し、比弾性率や比強度及び設計又は製造に必要な技術も対象となる。

これまでロケットの噴射口やジェットエンジンへの採用、釣り竿やゴルフクラブ、テニスラケットなど、娯楽・スポーツ用途など幅広く普及した。エポキシ樹脂を組み合わせたシート状CFRPなど複合材料の開発により用途も飛躍的に拡大。航空機への採用、風力発電機のブレード、ルーフやフード、ドライブシャフトなどの自動車部品、天然ガス自動車や燃料電池自動車のタンク、液晶基板搬送用のロボットフォーク、高速列車の車体、パソコンの筐体に利用されており、今回の事前審査14分野の対象は今後の日本経済を大きく変化させる。接着剤や成形加工装置、3Dプリンターの応用技術を活かした都市・住宅分野や洋上風力発電などの海洋分野、橋梁・土木構造物の軽量化、耐震化、長寿命化さらには宇宙産業への進出など、炭素繊維は脱炭素化社会の実現と世界の平和に貢献する革命的な社会資本形成の素材である。このため、建設産業においては、炭素繊維に限らずさまざまな建設資材や製品、及び建設機械の設備・機器や建築構造物が規制の対象から外れてグローバル化が進むことを願っている。

河北慶介