包括許可取扱要領におけるポンプの規制改正

液体材料の輸送、真空環境の実現等産業分野におけるポンプの用途は広範である。
今後も産業発展に欠かせない貨物との考えから、外為法で輸出規制されるポンプの仕様及び我が国規制の基になる各国際レジームでのポンプ規制指針について調査・整理し本ブログで報告してきた。
2021年11月18日にポンプ・バルブ等に関する規制を改正した包括許可取扱要領が公布・施行された。貿易管理の強化が謳われている状況の中で規制が緩和された例の1つである。
課題としてきたポンプ規制の的確な把握の一環として改正内容を纏め、考察した。
本改正では、ポンプ以外にバルブ(弁)、他の半導体関連貨物も緩和の対象になっているがここでは対象をポンプのみに絞った。

  1. 特別一般包括許可





    半導体メーカーが用いる半導体製造装置に組み込まれるもの、その他の半導体製造工程に用いられるものに限り「は地域②」又は「に地域②」向けにも適用可能となる。





    但し、「ち地域」向けへの適用は除外される。





    又輸出時点で需要者が確定している場合に限られ、ストック販売にも適用できない。





    本適用の前提条件である「半導体製造に用いられること」を担保するため以下の手続きが必要である。
    1. 「は地域②」又は「に地域②」に輸出する際には、輸出予定仕向け地、輸入者、最終需要者、使用目的・使用方法を経産省安全保障貿易管理課に事前に届ける。
    2. 事前届け出受理後、14日間は輸出不可とし経産省から特段異議が無い場合は14日経過後輸出可能となる。





      経産省は本許可を失効する場合は14日以内にその旨を通知しなければならない。





      経産省から特段の異議が無かった場合、需要者等への以降の輸出については再度の届け出は不要である。(以降の輸出時に失効処置が必要となる場合はその旨を輸出者に通知する。)
    3. 最終用途誓約書の取得、再輸出に関わる事前同意、年2回の実績報告が許可条件として付される。
  2. 特定包括許可





    「継続的な取引関係等について」に関する要件が以下のように緩和された。





    半導体製造用途に限らず全ての用途に適用可能である。
    1. 1年間の許可取得件数要件を、現行の6件以上を3件以上にする。
    2. 3年間の許可取得件数要件を、現行の「3年間におけるそれぞれの1年間に、輸出許可取得件数が2件以上」から「3年間におけるそれぞれの1年間に、輸出許可取得件数が1件以上」にする。
    3. 許可を受けて輸出した特定の貨物の同一の輸入者社向けへの保守・修理・交換を目的とした輸出が見込まれる場合を継続的取引としてきたが、いわゆる部分品特例を適用し輸出令別表第一の1~15項中欄に掲げる貨物に該当しないとして輸出した特定の貨物についても保守・修理・交換を目的とした輸出が見込まれる時は継続的取引とできる。
  3. 「は地域②」、「に地域②」とは





    「は地域②」、「に地域②」に属する国は提出書類通達の別表3(国及び地域区分の対照表)を見れば知ることができるが、どのような属性を持つ国かを知るには地域区分の仕組みを知る必要がある。





    今回は米満啓氏の文献1)から大枠の区分法を知り、法令集改定27版中の上述した対照表及び「国際輸出管理レジーム参加国」(1156頁)で現状を確認した。





    い地域①、は地域①、は地域②、に地域①、に地域②はいずれもAGレジームに関連する地域であり以下の関係にある。

 ・に地域①=い地域①、り地域、は地域①以外 = は地域②+に地域②
い地域① :ホワイト国
り地域  :大韓民国
は地域① :アイスランド、インド、ウクライナ、エストニア、キプロス、クロアチア、スロバキア、スロベニア、トルコ、マルタ、メキシコ、ラトビア、リトアニア、ルーマニア(大韓民国を除く非ホワイト国であってAG加盟国)
に地域② :アンゴラ、イスラエル、エジプト、コソボ、シリア、台湾、ミヤンマー、南スーダン、北朝鮮、ソマリア
・は地域② :に地域①―に地域②

上述に従えば「は地域②+に地域②」はAG非加盟国となる。
AG非加盟国から「ち地域(別表第3の2国+別表第4国)」を除いた国向けにも条件付きではあるが特一包括許可が適用可能となったことになる。
半導体産業で存在感のある台湾が「に地域②」であることに注目したい。

本規制緩和は2021年6月の産業構造審議会 通商・貿易分科会 安全保障貿易管理小委員会中間報告に基づいたものである。
” 管理は必要最小限とし、過剰な管理コストは生じないようにする” との法目的に沿って外為法が見直された。ポンプは輸出許可件数の多い範疇のものであり、中でも半導体製造用途向けの輸出が多い。
これまでの審査の積み重ねによって大量破壊兵器への転用の懸念がほとんどない状況を鑑み、懸念が低いことが分かっている場合に限定し規制が緩和された。
世界の半導体製造装置産業は堅調に伸び2035年には現在の約1.7倍の市場規模(13.5兆円)となること及び我が国のシェアは現在約30%であり今後もシェアを維持できることが予測されている2)。市場規模は我が国シェアが年々低下する半導体産業3)の約15%であるが、我が国にとって強化すべき技術優位な産業分野と考える。
2019年に安全保障貿易管理小委員会で示された経済政策の1つに「我が国の技術優位性をさらに伸ばす」ことが掲げられている。
今回の緩和が我が国半導体製造装置産業のシェアアップに寄与することを期待している。

参考文献
1)米満 啓.“輸出許可申請の「いろは」”. 第一輸出管理事務所.2018.3.6.
http://1st-xcont.com/ABCofLicenceApplication.pdf
(閲覧日2022-06-14)
2)松尾俊哉.“半導体製造装置は拡大、日本勢は世界シェアを維持”.公益社団法人 日本経済研究センター.2020.11.10.
https://www.jcer.or.jp/research-report/20201110-4.html
(閲覧日2022-07-14)
3) 経済産業省.“半導体戦略(概略)”.経済産業省.2021.6. 
https://www.meti.go.jp/press/2021/06/20210604008/20210603008-4.pdf
(閲覧日2022-6-30)

中村英夫