付表技術に思うこと

1、はじめに

デュアルユース貨物、技術は民生及び軍事用途の両方に使用できる貨物、技術を指す。技術革新が著しい現在、民生貨物及び技術を軍事目的に応用、直接転用するケースも増している。民生技術と軍事技術の区別が特に難しくなっている。経済安全保障の構築においても同様な困難さが予測できる。デュアルユース技術の管理については国内外の状況を踏まえた多くの議論がなされ、管理体系が決定されることが必要と考える。

付表技術はワッセナーアレンジメント(WA)のSensitive Listに掲げられている技術で、提出書類通達の別表2付表1,2に示されている。Sensitive List貨物は告示貨物と称され輸出令別表第3の3(又は経済産業省告示第758号)に纏められている。告示貨物に比べ、付表技術の内容に関しては詳しい知見をこれまで持っていなかった。付表1の技術と告示貨物との関係、付表2の技術について改めて内容を調べた。

2、付表1の技術

付表1の技術は21ある。各技術が輸出令別表第一のどの貨物に関するものか、

又それが告示貨物であるか否かを調べ以下の結果を得た。

  • 全ての告示貨物は、その設計、製造、使用技術の少なくとも一つ(含むプログラム、必要な技術)が付表1の技術になっている。
  • 告示貨物でない特定する貨物の設計、製造、使用技術の少なくとも一つ(プログラム、必要な技術を含む)も付表1に存在する。その貨物<項番>は電波吸収材<5(8)>、工作機械<6(1)>、デジタル電子計算機<8(2)>、航法関連機器<11(1)~11(4)>、ガスタービンエンジン及び部分品等<13(2)~13(3)>に関するものである。

上述(2)に記載される貨物は、それらの設計、製造、使用技術が貨物自身よりも機微度が高いと判断されたものと言える。軍事技術、用途に関する知識が乏しい こともあり、弊職にはこの判断がなされた理由は判らなかった。

3、付表2の技術

付表2は2019年6月25日の通達で新設され、同年6月27日より施行されている。

以下に示す貨物の設計又は製造に必要な技術(4.は製造に必要な技術のみ)を規制したものである。対応する貨物は告示貨物となっていないが、一部の貨物は包括許可、個別申請に於いて管理強化されている。(1)

  • マイクロ波半導体用GaN系素子(貨物等省令第6条第2号の一部)
  • ヘテロエピタキシャル材料となるGaN結晶を多層膜に持つヘテロ多層基板(貨物等省令第6条第18号の一部)
  • 高抵抗GaN基板関係(貨物等省令第6条第22号~24号の一部)
  • 光学材料の高純度テルル又はテルル化カドミウム系のエピタキシャル成長結晶を持つウエハー(貨物等省令第9条第16号イ又はロ)

「青色発光ダイオードの発明と実用化」で赤崎、天野、中村教授が2014年にノーベル賞を受賞された。ダイオードの材料となるGaNのサファイア上への高品質結晶の生成技術の発明が受賞に大きく寄与した。(2)本結晶生成技術を基に、サファイア以外の基板上でも高品質なGaN結晶を生成できる技術もその後開発され、高周波素子、パワー素子分野での性能向上が進んでいる。

WAのSensitive Listの定義を見ると次のように記載されている。
Sensitive List:Basic Listにあるアイテムであって、其の拡散がWAの目的を著しく害する先進的な通常軍事力の固有な開発、製造、使用又は強化に直接的に関係する主要な要素となるもの。

GaN基板はどのような軍事技術に利用されるのであろうか。

インターネット検索し、2018年のイージス艦用レーダーの記事を見つけたので紹介する。(3)

弾道ミサイル防衛を担うイージス艦に搭載する次世代レーダーの日米共同開発に関するものである。元々は気象レーダー向けに日本企業が開発したGaN製送受信素子を使った開発である。従来のGa-As素子のレーダーに比べ探知距離が3倍程度(1500Km)に向上する。これら技術が完成されるとミサイル、戦闘機にも応用展開が可能である。時期的に見て本件も付表2の技術新設の後押しとなったのではと考えている。

4、まとめ

GaNの高品質結晶生成技術の発明が新しい半導体基板材料を生み、それが各先端分野で高性能素子の開発を促進した。ノーベル賞受賞者赤崎、天野教授が青色発光ダイオード開発の第一研究目標を当時難課題であったGaN高品位結晶生成とされなかったらこのような技術展開は無かったかもしれない。両教授の勇気、ご見識に感謝したい。

本技術は我が国の優位技術であり誇らしく思う。今後も研究を続け競合優位を保ってほしい。又望ましくないテロリスト等に流出することが無いよう注意も必要である。

持論ではあるが、研究は人間本来の知的好奇心に基づく創造活動であり、原則自由であるべきと考える。加えて企業の研究活動は財を生むものであり、停滞は許されない。

安全保障貿易管理、経済安全保障に於ける、技術の流出防止等の課題に対しては、研究活動が不活発化しないような施策を講じてほしいと願っている。

5、資料

中村英夫