PFAS(ペル/ポリフルオロアルキル物質 Per and polyfluoroalkyl substances )規制について思う

欧州において、オランダ、ドイツ、ノルウェー、スウェーデンおよびデンマークの5 ヶ国が、2023年1月13日、欧州化学品庁(ECHA)に提出した「広範なPFAS」に対するREACH規則に基づく制限提案書が、2023年 2月7日に、補足文書と共に、欧州化学品庁(ECHA)のwebサイトに公表されました。

その内容は、ほぼ全てのPFASを全廃するもので、2025年の発行から18カ月後に適用されます。移行期間を設けられている用途もありますが、最大で10年ですので、2037年(18か月の適用期間を含む)には、欧州ではPFASが使用できなくなるというものです。

ここで、PFASについて説明致します。
今回の規制案に言うPFASとは、経済協力開発機構(OECD)の定義を満たすものとされています。

OECDの定義によりますと、直訳すると
完全にフッ素化されたメチルまたはメチレンの 炭素原子(水素/塩素/臭素/ヨウ素原子が結合していない)を少なくとも1つ含むフッ素化物質であり、より分かり易く言い換えると少なくとも「ペルフルオロメチル基(-CF3)」または「ペルフルオロメチレン基(-CF2-)」を有するあらゆる化学物質となります。

現在、OECDでPFASはリスト化されており、4,730種類(2023年2月)が登録されています。ちなみに、米国環境保護庁(EPA)にも同様のリストがあり、こちらは12,034種類(2023年2月)が登録されています。2月にECHAで公開された制限案では、1万種以上との表現も盛り込まれていることから、EPAのリストも意識していると思われます。

PFAS物質リストの中には
Ethene, 1,1,2,2-tetrafluoro-, homopolymer(PTFE、一般名テフロン)
1-Propene, 1,1,2,3,3,3-hexafluoro-, polymer with 1,1-difluoroethene(2元系FKM、一般名バイトン)
1-Propene, polymer with 1,1,2,2-tetrafluoroethene(FEPM、一般名アフラス)
Ethene, 1,1,2,2-tetrafluoro-, polymer with 1,1-difluoroethene(polyvinylidene fluoride (PVDF))
と言った比較的身近な材料も含まれています。
これらを、あと10年余りのうちに排除する規制案で、かなり乱暴だと思います。

PFASを直接目にする機会は少ないですが、我々の生活にかなり密着しています。
例えば、化学的に安定なPTFEの容器やライニングが無ければ、化学工業が成り立たなくなると思いますし、家庭でもフライパンが焦げ付きます。

FKM(フッ素ゴム)は自動車の燃料ホースなど、エンジン回りで多く使われています。電気自動車であれば、フッ素ゴムを使用しないかも知れませんが、PVDF(ポリフッ化ビニリデン)は、リチウムイオン電池の正極用バインダーとして広く使用されていますので、リチウムイオンバッテリーは使えません。と言う事はスマホもアウトです。

アフラスは、電線の被覆材として重宝されていますし、原油・天然ガス等の掘削用途でも多く使われています。
これらは一例にすぎず、PFASがなくなれば、一般生活にかなりの影響があると予想されます。

これからのスケジュールとしては、
リスク評価委員会(RAC)/提案書の公表日から「9 ヶ月以内」に意見書を採択する
社会経済分析委員会(SEAC)/提案書の公表日から「12 ヶ月以内」に意見書を採択する
ですので、ここで否決・修正される事を望みます。

先のブログにも記しました通り、半導体の製造工程でも多くのPFASが使われていますし、石油・天然ガスの掘削にも使われています。情報技術、エネルギー技術を支える、戦略的にも、経済安全保障的にも重要な物質群だと思います。
ほとんどのPFASでは毒性は確認されていません。
日本政府にあっては、欧米の狂信的な環境規制に妄信せず、科学的見地に則った独自判断をして頂きたいと思います。

ところで、以下は私の個人的な意見です。
3Mは、PFAS製造・販売から、2025年末までに撤退する事を表明しています。先行して欧州への供給を止めてみれば、どの様な影響が出るのか、良い社会実験になるのでは、と夢想するこの頃です。

何の結論も出ない、とりとめのない文章となりましたが、ここまでお付き合い頂き、ありがとうございました。