量子コンピューターはデジタル分野の核兵器だ

安全保障輸出管理の分野では、「核兵器、化学兵器、生物兵器そしてミサイル」が「大量破壊兵器等」という専門用語で括られて特に厳しい管理が求められてきた。しかし、世の中が次第に進化を続け、あらゆる分野でデジタル化が浸透してきた現代社会において、国家の安全保障上最も注意しなければならない技術分野は、量子コンピューターの技術分野となってきた。
そして、その量子コンピューター技術分野では、米国の牙城を揺るがす事態がすでに発生していることを私たちはしっかりと認識しなければならない。即ち、2020年、米国と覇権争いをしている中国の内陸部の安徽省合肥市にある子ピューターメーカー「本源量子」で中国で初の量子コンピューター「悟源」が発売されたというニュースが入ってきたからである。
これまで米国のスーパーコンピューターの性能で守られて我々の社会の安全保障、情報セキュリティの領域が、新たに登場してきた量子コンピューターの威力によりすべて無力化してしまう恐れがあるということである。暗号・セキュリティが無力化したら、我々のいまの社会システムのすべての秩序が喪失してしまうことになる。
そのような状況がどういうことを意味するのかを想像するのはなかなか難しいとおもうが、敢えて例えるならば、東京のど真ん中で原子炉がメルトダウンしてしまったような事態とでもいえばよいだろうか。
あらゆる金融システムはシャットダウンしてしまうので個人の資産は全く使えなくなるだろう。カードや携帯電話も使えず、すべての物流システム、電力、ガスや水道などの公共サービスもうけられなくなる。
先日、某金融機関のATMが急に使えなくなって大騒ぎとなったが、身の回りのコンピュータシステムを維持するのに不可欠な情報セキュリティが喪失するとどういうことが起こるのかを私たちは今から想定して、その対応を考えていかなければならない時代に入ってきた。

中村博昭