先端材料ポリイミドの外為法リスト規制

先端材料であるポリイミドのリスト規制について考察した。広義のポリイミドと言えるビスマレイミド、ポリエーテルイミド、ポリアミドイミドは考察対象から外した。
ポリイミドの一般化した化学構造式を図1に示した。イミド結合(図中点線括弧内に表示)を主鎖に持つポリマーである。R、R’が共に芳香環であるポリイミドは耐熱性、機械特性、電気絶縁性、耐薬品性に優れる高分子材料で航空宇宙、自動車、民生電子機器分野で広く使用されている。

一般構造式ではイメージしにくいので、具体的な構造式を使いDuPont社が開発した代表的なポリイミドの製造法を例示した。(図2)

 非プロトン性極性溶媒中でまずテトラカルボン酸無水物とジアミンを反応させ溶媒に可溶なポリアミック酸(数平均分子量10万以上)を生成する。
このポリアミック酸溶液をフィルム等に加工した後に高温加熱し脱水環化させることで溶媒に不溶で加熱しても溶融しないポリイミドが生成する。

 ポリイミドをキーワードに経産省安全保障貿易管理HPの貨物マトリックス表を検索した結果、第 5項(3)、(16)、(17)で特定の仕様を持つ芳香族ポリイミドとふっ化ポリイミドが規制対象となっていることが分かった。
(表1)但し貨物等省令第4条に掲げる貨物で医療用に設計された装置又はその装置に組み込まれたものは規制から除かれる。

表1.ポリイミドの貨物リスト規制
   (ポリイミドに関する規制部分を青色で表示)

 “芳香族ポリイミド”の解釈についての記載は輸出令別表第1第5項に無い。どのように解釈することが適切かを考える為にネット調査を行った結果、CISTECの資料1)に当該記載のあることがわかった。

芳香族ポリイミドとは“ポリイミドの中でイミド結合により直接結合された芳香環を有するもの”とされている。

 図1に於いてR及びR’が芳香環の場合、Rが芳香環の場合を芳香族ポリイミドと定義した文献、商品説明書が見受けられる。確かにイミド環と連結したリジッドな芳香環がポリイミドの優れた特性発現に寄与してることは理解できる。しかし上記の定義を厳密に解釈すればR’だけが芳香環の場合も芳香族ポリイミドと言える。移動通信用途向けには電気特性発現の為にRが脂肪族環となる可能性がある。芳香族ポリイミドであるか否かの判断には注意が必要である。

 高分子固体の分子構造、成形加工性から以下の3タイプにポリイミドは分類される。2)

  1. 直鎖非熱可塑型:線状高分子でありながら溶融流動性が極めて悪く溶融混錬成形ができず、圧縮/焼結法や溶液キャスト/脱溶媒により成形される
  2. 直鎖熱可塑型:線状高分子であり射出成形/押出成形可能な可逆的熱可塑樹脂
  3. 熱硬化型:反応性モノマー又は予備重合したオリゴマーを型に入れ加圧下に加熱し3次元網目構造を持つ不溶不融な成形体となるもの。輸出令第5項(16)に記載されるビスマレイミドはこの範疇のものである。

 表1の第5項(3)は直鎖非熱可塑型ポリイミドの製品、第5項(16)は直鎖熱可塑型で特定の耐熱性のものを規制したと考えることができる。
 第5項(17)は直鎖熱可塑型で特定のふっ素原子含有量のポリイミドを規制対象としている。
ふっ素原子の導入と全体の分子骨格を適切に設計することでポリイミドが元来持っている特性と電気特性(低誘電率、低誘電損失)の両立が可能となっている。

 2020年以降実用化が進む大容量、高速、高周波数対応を目的とする5G(第5世代移動通信システム)にとっては低誘電率、低誘電損失は必須の特性である。
加えて従来黄色~褐色を呈すポリイミドの無色透明化も達成されている。
有機ELディスプレーパネル、戦闘機表示パネルへの応用の可能性も高く、ふっ化ポリイミドは別枠での規制になったと考えている。
ふっ化物材料は欧米のPEFAS規制の動きへの対応が深刻な課題となっている。ふっ化ポリイミドも例外でなく、今後の規制動向に注視が必要である。
一方、ふっ素原子を使用しない透明5G用ポリイミドも提案されている。
6G通信規格の策定が本年から開始されるという報道もあり、ふっ素原子を使用しない5G、6G向けポリイミド開発も重要なテーマになると予想できる。

【参考資料】

1)Microsoft Word – 図説_軍事転用可能な民生品-WA編-最終稿v3訂正版.doc

2)片岡俊郎他, 高分子新素材one point1“エンジニアリングプラスチック“,88頁,高分子学会編集(1989)

中村英夫