半導体製造装置・技術の申請可能包括許可

                                    中村英夫

1.はじめに

 地域区分名は平仮名又は平仮名と数字の組み合わせで表現される。運用通達別紙、
提出書類通達別表1では本区分名(仕向け地)と許可申請貨物項番で申請窓口と必要な提出書類を知ることができる。提出書類通達別表2では申請技術に関し同様な記載がある。

 一方、包括許可取扱要領別表A・Bのマトリックス表では貨物・技術の該当する項番と本区分名(仕向け地)で申請できる包括許可が判る。
 各区分に入る国はどのような考えに基づいて決定されるかについては以前から興味があり機会を見ては調べてきた。第一輸出管理事務所の米満氏による2018年3月の報文には有用な解析結果が纏められている。
(http://1st-xcont.com/ABCofLicenceApplication.pdf)

 本報文発表以後「り地域」と「と地域③」が追加新設された。
 提出書類通達別表1を米満氏の考え方で大枠整理すると以下のようになる。(表1)

表1.申請項番と地域区分

〇:記載のある地域区分
1)~4)国際レジーム:1) 原子力供給国グループ、2)オーストラリアグループ、
3)ミサイル関連機材・技術輸出グループ、4)ワッセナーアレンジメント

2023年7月現在も「い地域①」、「り地域」を除いた地域は国際レジーム別に分類できる。
一方「と地域③」は提出書類通達別表1には現れなかった。当該地域は多分WAに関係すると推定できるが、今回その内容に関し詳しく調べてみた。

2.「と地域③」追加新設の経緯

 国際輸出管理レジームにおける2021年の合意等を受けて、外為法に係る政省令及び関連通達改正が2022年12月6日に施行された。
規制の対象となる技術及び貨物の追加・削除等を目的としたものである。
提出書類通達及び包括許可取扱要領の一部が運用通達で改正された。半導体用リソグラフィー装置の輸出管理強化を目的に「と地域③」は追加新設された。

3.「と地域③」に含まれる国

 当該地域に含まれる国は運用通達別紙「輸出令別表第1貨物に係わる許可事務の取り扱い区分」の注及び提出書類通達別表3「国及び地域区分の対照表」に記載されている。「い地域①」、「と地域①、②」、「ち地域」、「り地域」の国々を眺めながら「と地域③」の素性を探ってみた。 

  1. 「と地域①」は上記別表3に記載された国々から「ち地域の国を除いたものである。
  2. 「と地域②」は「と地域①」から「い地域①」、「り地域」の国を除いたものである。
  3. 「い地域①」は輸出令別表第3国である。
  4. 「と地域③」は「と地域②」から次の国々が除かれたものである。





    インド、ウクライナ、エストニア、クロアチア、シンガポール、台湾、トルコ、マルタ、南アフリカ共和国、メキシコ、ラトビア、リトアニア、ルーマニア、スロバキア、スロベニア
  1. で除かれる国の共通の素性を色々探った結果、台湾とシンガポールを除く国はWA参加国であることが分かった。これらの国と「い地域①」、「り地域」の国が全WA参加国となる。

 WA参加国でない台湾、シンガポールの安全保障輸出管理は次の状況にある。

 台湾:4種の国際レジーム及び化学兵器禁止条約等には参加していないがそれらを参照して輸出管理を実施し国際協調の枠組みに協力している。
 シンガポール:戦略物質管理法において、軍事用又は軍事・民生の両方に利用可能な特定物質を戦略物質として又関連する技術の物理的・電子的な移動も税関が管理している。

 上述のように両国は政情も安定し、いわば準WA参加国と評価され「と地域③」とされなかったと推察している。  

4.「と地域②(と地域③を除く)」と「と地域③」の規制の比較

 「と地域③」が関係する箇所は包括許可取扱要領別表A、Bの7の項である。
7の項に掲げる該当する貨物、技術が許可申請できる包括許可が仕向け地別に記載されている。
 まず半導体リソグラフィー装置及びその使用技術の場合を紹介する。(正確には電子線を光源とした直接描画方式で半導体素子又は集積回路製造ができる特定の半導体リソグラフィー装置及びその使用技術である。)(表2)
 上述リソグラフィー装置:輸出令別表第1の7の項(16)に掲げる貨物で貨物等省令第6条第17号ヘ(4)該当
 使用技術:外為令別表の7の項(2)に掲げる技術で貨物等省令第6条第17号ヘ(4)に該当する技術

    表2. 半導体リソグラフィー装置、技術の仕向け地別申請可能な包括許可

「と地域②(と地域③を除く)」は特別一般包括、「と地域③」は特定包括対象となる。
一方貨物等省令第6条第17号ヘ(4)に該当する設計、製造技術は「い地域①」、「と地域②(と地域③を除く)」、「と地域③」、「リ地域」全てで特定包括対象となっている。
 7月23日から規制対象となる半導体製造装置及びその技術について調べた。(表3)

表3 新たに規制される半導体製造装置、技術の仕向け地別申請可能な包括許可

 表3中、「ルからフまで又は第17号の2のいずれかに該当するもの」が新たに規制対象となる半導体製造装置23品目である。半導体リソグラフィー装置と同じ規制となっていることが分かった。

5.まとめ

 地域区分「と地域③」に関し調査し次のことが分かった。

  1. 「と地域③」はWAレジームが要求するレベルまで輸出管理が現状できてない国々と言える。
  2. 7月23日から規制される半導体製造装置23品目に関してもリソグラフィー装置同様、仕向け地が「と地域③」の場合特別一般包括許可でなく特定包括許可が申請対象になる。

 我が国にとって機微度の高い半導体製造装置の計画的、継続的な輸出管理強化を地域区分「と地域③」の調査と考察を通し実感した。 

以上